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精神神経疾患病態研究セクター

Sector for Neuropsychiatric Disease Research

セクター概要

日本における精神疾患の生涯有病率は419万人と報告されており(厚生労働省)、WHOの調査でも精神疾患は約5人に1人が生涯に1度は罹患する大変身近な疾患と言えます。現代の精神医学は、診断の困難と分類システムの問題、治療法の個別化と効果の限界、新規開発薬剤の不在などの複数の根本的な課題を抱えています。これらの課題は、精神疾患の病態の大部分が不明であることの最大の理由であることは言うまでもありません。精神疾患の病態解明が進まない理由として、精神疾患の病態が均質ではないこと(同一疾患であっても異なる病態が多数含まれている)、各種の病態に対応する病態特異的なバイオマーカーが不在であることが挙げられます。こうした課題を解決するため、私たちの精神神経疾患病態研究セクターでは、精神神経疾患に関連する多種類の病態に対応する革新的なイメージングバイオマーカーの開発を進めています。さらに、新しいバイオマーカーを活用した臨床研究を国内外の研究機関と共同で推進し、精神疾患の多彩な病態を一つずつ着実に明らかにすることをセクターの使命としています。現在、精神神経疾患病態研究セクターでは、下記の研究を行なっています。

慢性外傷性脳症(CTE)の高精度画像診断法の確立に向けた研究

コンタクトスポーツなどの脳震盪への反復性曝露によって引き起こされる神経変性疾患である慢性外傷性脳症(CTE)に対する縦断的コホート研究を行っています。2019年に、第一世代タウPET薬11C-PBB3を用いた研究を実施し、多彩な頭部外傷によって引き起こされる脳内タウ蓄積を世界で初めて可視化することに成功しました(Takahata et al.,Brain 2019)。現在は、ボストン大学と共同で慢性外傷性脳症に関する高精度なイメージングバイオマーカーの確立に向けた研究を行っています。本研究では、元プロボクサーなど、研究にご参加頂ける方を募集しています。

中枢神経疾患による続発性タウオパチーの病態解明

近年、cyro電子顕微鏡により、麻疹ウイルスによる亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis; SSPE)、紀伊半島の神経風土病-筋萎縮性側索硬化症・パーキンソン・認知症複合(Kii ALS/PDC)でCTEど同一のタウ凝集体が脳内に蓄積することが報告されています。本研究では、SSPE、Kii ALS/PDC、てんかん、サリン中毒後遺症、自己免疫脳炎後遺症などの患者さんを対象としてタウPET撮像を実施し、続発性タウオパチーの病態機序を明らかにすることを目的としています。

精神神経疾患に対する新規PETトレーサーの開発

精神神経疾患の多彩な病態に対応する新しいイメージングバイオマーカーの開発を産学共同で推進しています。特に、蛋白蓄積病態、神経炎症、神経伝達系の可視化を重点的な開発対象としています。

老年期精神障害の背景病態の解明に向けた研究

老年期うつ病の一部がタウオパチーであることを世界に先駆けて報告しました (Moriguchi et al., Molecurar Psychiatry 2020)。現在は、第二世代高精度タウPET薬を用いたPET及び死後脳を用いた包括的な検討を実施しています。さらに、量研機構で開発されたαシヌクレインPETトレーサーを用いた研究も進めています。

Long COVIDの神経炎症PET研究

パンデミックを引き起こしたCOVID-19による後遺症(Long COVID)の病態神経炎症PETイメージング研究を、慶應義塾大学医学部(呼吸器内科 福永教授)と共同で進めています。COVID-19罹患後に中枢神経炎症が遷延することでCOVID-19罹患後の精神神経症状が引き起こされるという脳内炎症仮説に基づき、活性化アストロサイトおよび活性化ミクログリアによる脳内炎症を生体内で可視化するPETイメージングを行い、COVID-19罹患後の遷延性脳病態のトランスレータブルなバイオマーカー開発を行っています。

認知症のシナプスパソロジーの解明に向けた縦断的PET研究

認知症の未病段階において、従来の研究では捉えきれなかったグルタミン酸神経伝達の変調を生体脳において可視化する研究を横浜市立大学医学部(生理学教室 高橋教授)と共同で進めています。

精神疾患の病態解明に向けたPET研究

うつ病や統合失調症などを対象として、革新的なPETトレーサーを用いた臨床研究を行っています。これまでにうつ病におけるノルエピネフリントランスポーターの異常(Moriguchi et al., American Journal of Psychiatry 2017)、統合失調症におけるドーパミンセカンドメッセンジャー系の異常(Kubota et al., Schizophrenia Bulletin 2023)、双極性障害におけるドーパミンセカンドメッセンジャー系の異常(Yamamoto et al., under review)、ドーパミン神経伝達機構の包括的イメージング(Yamamoto et al., EJNMMI 2023)、うつ病におけるセロトニン神経伝達機構の異常(Kitamura et al., International Journal of Neuropsychopharmacology 2023)などの成果を挙げています。

精神神経疾患の死後脳を用いた画像病理相関解析の研究

ヒト死後脳による検証は、イメージングバイオマーカーの開発においてstandard of the truthとなる重要な項目となります。国立精神・神経医療研究センター、新潟大学脳研究所、下総精神医療センター、Boston大学、Mayo Clinicなどと共同で研究を進めています。

共同研究機関

  • 慶應義塾大学医学部 精神神経科学教室
  • 横浜市立大学医学部 生理学教室
  • 東京医科歯科大学精神科
  • 国立精神・神経医療研究センター
  • 新潟大学脳研究所
  • 下総精神医療センター
  • Boston大学 CTE center (Ann McKee教授)

精神神経疾患病態研究セクターの一員として、研究に加わって下さる研究者や事務スタッフを募集しています。当セクターの研究のほとんどは、神経変性疾患研究セクターと共同で、精神疾患と神経疾患の垣根を超えた研究体制で進めています。詳しくは、下記までご連絡ください。

高畑 圭輔、Keisuke Takahata

cte.brain.assessments@gmail.com

セクター長

高畑 圭輔 (たかはた けいすけ)

医師、医学博士

https://researchmap.jp/CTE
高畑 圭輔 医師
  • 2003年 慶應義塾大学医学部卒業
  • 2005年 国家公務員共済組合連合会 立川病院, 精神神経科
  • 2012年3月:慶應義塾大学 大学院 博士課程 医学研究科 修了 医学博士号取得
  • 2012年4月 独立行政法人 放射線医学総合研究所 博士研究員
  • 2015年4月 量子科学技術研究開発機構 放射線医学総合研究所 脳機能イメージング研究部 研究員
  • 2023年3月 国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構 量子生命・医学部門 量子医科学研究所 脳機能イメージング研究部 主任研究員
  • 2024年4月 国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構 量子医科学研究所 脳機能イメージング研究センター 精神神経疾患病態研究セクター セクター長
  • 委員歴
  • 2021年 日本神経心理学会 評議員
  • 2021年 日本高次脳機能障害学会 代議員
  • 2022年 Psychiatry and Clinical Neurosciences Reports Journal Editor

代表的な出版論文

  1. 1. Takahata, K. et al. PET-detectable tau pathology correlates with long-term neuropsychiatric outcomes in patients with traumatic brain injury. Brain 142, 3265–3279 (2019).
  2. 2. Takahata, K. et al. First-in-human in vivo imaging and quantification of monoacylglycerol lipase in the brain: a PET study with 18F-T-401. Eur. J. Nucl. Med. Mol. Imaging 49, 3150–3161 (2022).
  3. 3. Miyata, M. et al. Association between mammillary body atrophy and memory impairment in retired athletes with a history of repetitive mild traumatic brain injury. Sci. Rep. 14, 7129 (2024).
  4. 4. Yamamoto, Y. et al. Association of protein distribution and gene expression revealed by positron emission tomography and postmortem gene expression in the dopaminergic system of the human brain. Eur. J. Nucl. Med. Mol. Imaging 50, 3928–3936 (2023).
  5. 5. Tagai, K. et al. High-Contrast In Vivo Imaging of Tau Pathologies in Alzheimer’s and Non-Alzheimer’s Disease Tauopathies. Neuron 109, 42-58.e8 (2021).
  6. 6. Moriguchi, S. et al. Excess tau PET ligand retention in elderly patients with major depressive disorder. Mol. Psychiatry 26, 5856–5863 (2021).
  7. 7. Yamamoto, Y. et al. Differential associations of dopamine synthesis capacity with the dopamine transporter and D2 receptor availability as assessed by PET in the living human brain. Neuroimage 117543 (2020).
  8. 8. Takahata, K. et al. A human PET study of [11C]HMS011, a potential radioligand for AMPA receptors. EJNMMI Res. 7, 63 (2017).
  9. 9. Takahata, K. et al. Emergence of realism: Enhanced visual artistry and high accuracy of visual numerosity representation after left prefrontal damage. Neuropsychologia 57, 38–49 (2014).
  10. 10. Takahata, K. et al. It’s not my fault: postdictive modulation of intentional binding by monetary gains and losses. PLoS One 7, e53421 (2012).
  11. 11. Takahata, K. et al. Striatal and extrastriatal dopamine D₂ receptor occupancy by the partial agonist antipsychotic drug aripiprazole in the human brain: a positron emission tomography study with [11C]raclopride and [11C]FLB457. Psychopharmacology 222, 165–172 (2012).