ごあいさつ

現在、世界では約6,000万人が認知症を患い、ほぼ同数の人々が発症予備軍にあると推定されています。認知症の克服は、幸福で持続可能な健康長寿社会を実現するうえで、人類が直面する最重要課題の一つです。アルツハイマー病をはじめとする多くの認知症に共通する脳内変化として、アミロイドβやタウといった異常タンパク質が線維状に凝集・沈着する現象が知られています。私はこれまで、こうした病変を可視化する画像検査や血液検査の開発に取り組んできました。
近年、異常タンパク質を標的として除去する治療法の研究・実用化が、産学の連携により急速に進展し、認知症の診断と治療は新たな転換点、いわば「黄金時代」を迎えつつあります。本ムーンショットプロジェクトでは、私が提唱する「脳内セノインフラメーション」を認知症病態の中核概念として据え、中高年期に生じる鍵分子の変化を超早期に検出し、是正することで根本的な克服を目指します。脳炎症、細胞老化、タンパク質老化、生体計測、生体資源研究の第一線の研究者が結集し、量子科学技術研究開発機構(QST)と、2027年5月開設予定の大阪健康長寿医科学センター(大阪長寿)を東西の拠点として、成果の迅速な社会実装を推進します。認知症から解放され、100歳まで健康で安心して暮らせる社会を必ず実現するという強い信念のもと、大胆な発想と地道な研究の積み重ねを融合させ、夢を現実へと変えていきます。

樋口 真人 プロジェクトマネージャー

  • 量子科学技術研究開発機構 量子医科学研究所 脳機能イメージング研究センター センター長
  • 大阪公立大学大学院医学研究科 病因診断科学 教授

「脳内セノインフラメーション」
プロジェクトとは

グリア病態からセノインフラメーションへ発展する概念に基づく
認知症発症機序の早期検出と制御

認知症は、主に脳内で生じる三つの有害な変化によって引き起こされると考えられます。すなわち、アミロイドβやタウといったタンパク質が異常な線維状の「ゴミ」として蓄積すること(脳タンパク質老化)、本来は脳を守る役割を担うグリア細胞が炎症を引き起こすこと、そして神経細胞やグリア細胞が老化することです。老化と炎症の二者が相互に増幅する「セノインフラメーション」に加えて、脳タンパク質老化が加わった三つ巴の「脳内セノインフラメーション」が認知症病態の本質といえます。本プロジェクトでは、「脳内セノインフラメーション」を駆動する鍵分子の同定と制御を目標としています。これらの鍵分子を標的として、血液検査や画像検査の小型・高効率化や、新規治療薬の創出を推進し、認知症を克服した健康長寿社会の実現を目指します。

脳内セノインフラメーション

凝集タンパクの脳内沈着、脳内細胞老化、神経炎症のサイクル図

鍵物質を狙いうつ次世代診療ワークフロー

セノインフラメーションの鍵物質を画像で見ながら制御、超高感度・迅速・低コストの体液計測でスクリーニング
  • 鍵分子の特定と評価

    認知症克服に最も有効な鍵物質を同定し、血液・画像検査で病態を評価する。

  • 診断・治療一体型
    医療の実現

    鍵物質を可視化しながら介入し、治療薬や次世代サプリの有効性を検証する。

  • 迅速検出と実用化

    少量検体で鍵物質を簡便に検出し、エビデンスに基づく技術の社会実装を進める。

「脳内セノインフラメーション」プロジェクトによって実現する社会のイメージ

AMEDムーンショット目標7HPに掲載された紹介イラスト(https://www.amed.go.jp/content/000141820.jpg)を転載

「脳内セノインフラメーション」プロジェクトが実現を目指す
認知症「どこでも診断・どこでも治療」のイメージ

セノインフラメーションの鍵物質を画像で見ながら制御、超高感度・迅速・低コストの体液計測でスクリーニング